叶鋼は午前1時に計算をする

電子工作と計算の記録

【社会】祈る価値のない祈りのみを捧げる

皆さん、よろしくて?

誰のためでもなく、何のためでもなく、誰にも願わず、何も祈らず、乾杯!

森博嗣黒猫の三角」より引用

私は子供の頃、カソリック系のシスターの世話になっていたので、クリスチャン的世界観を刷り込まれて育った。  

神は唯一絶対であること、イエス・キリストは死後三日目に復活したことで自分が神の子であることを証明したことや、イエスは中東人のはずなのに外見は白人そのものであることは、疑うべきではない自明の真理であった。  

その後、私は彼らの世話が必要なくなり、神道系の伝統が強い場所で生活を始めた。

治天下皇尊(あめのしたしらしめす すめらみこと)を名乗る現人神がいたり、何にでも神を見出す多神教であったり、いきなり今までとまるで価値観の違う宗教に放り込まれ、更にそれらの儀式を執り行う側になったので私はひどく混乱した。  

その後、いろいろあって「神は信頼に値しない」「神なんて、どうでもいい」と思うようになり、アレとは関わるまいと決め、アレに頼ることはしないと私は誓ったのであった。

神を否定することで、神に関する矛盾した教えによる自我の危機から逃れたのだと、今の私は自己分析している。

他にも実際に神に頼って破滅した人間を何人も見たことも大きな理由ではある。人間を救えるのは人間だけだ。  

 

それでも日常を生きていれば、何かの行事で神に祈ることを強制される場面が出てくる。

そんなとき、神に頼らぬ私に祈ることは何もないのだが、何も祈らないのは神主殿への非礼になる。どうせ分からないのだから、何も祈らずにいればいいという考えは浅慮である。

その道のプロならば、相手がどの程度真剣に念じているかは、言葉に出さなくても分かるものである。何よりもバレなければどうしたっていいという考え自体が不敬の極みだ。

そこで仕方なく、私はどうでもいいことを祈るようにしている。  

  

先日も祈らざるをえない機会があったので私はこんなことを祈った。

AEDという装置がある。意識を無くした人に対して心臓マッサージが必要かを自動判定し、必要ならば電気ショックを与えてくれる装置だ。

これを使うとき、装置のパッドを相手の胸に取り付けるために、相手の上半身を脱がして裸にしないといけない。

だから、もしこれを使う場面に出くわした場合、相手が若い女性だったら凄く困るわけである。

その女性が可愛ければ、困難は倍増する。  

若くて可愛い女の子なら幸運ではないかと思うのは素人である。

そんなことで嬉しがれるギラギラした時期は当の昔に終わっており、今の私は世間様の目が気になるお年頃だ。

路上に倒れた可愛い女の子を裸にしている姿など、変質者以外の何者でもない。

許されることなら無視して見殺しにしたいが、残念ながらそれは許されない。 

ここで相手が男性なら正々堂々としていられる。太った中年女性なら言い訳の必要もない。

あんな自意識過剰の塊である繊細で可憐な若い女性なんて、神の次に関わりあいたくない人種である。

本当に危機的状況で脱がしたのならばいいが、「私は単に軽い貧血で倒れていました。ふと目を覚ましたら、見知らぬ男が私を脱がそうとしていました」なんてことになれば、私はどんな汚名を着せられるか分かったものではない。

ああ、考えただけで、恐ろしい。そんな場面に出くわしたら、本当に無視して見殺しにしたいのですけれど、ダメですかね?

もちろんダメということは分かっている。

けれど、この恐怖を思えば、そんな状況になることが幸運どころか不運でしかないことはご理解いただけるであろう。  

そんな場面には遭遇しないようにと私は祈り、神主殿の祈祷が終わるまでの時間を過ごした。

今、私は意外とどうでもよくないことを祈ってしまったかもしれないと、猛省しているところである。

 

(追記)

真面目な話をすれば、AEDを使用する際はブラジャーを付けたままでも可能である。

また、周囲の人に声をかけて、なるべく性別が同じ人やAED講習経験者に行ってもらうのが好ましい。

しかし、他人任せにするのは良いことではなく、野次馬にならないよう、実践者として自分の役割を見つけるように努めるべきである。(救急車を呼ぶ、AEDを探す、腎臓マッサージを行う)。

ただの野次馬にしかなれないなら、居るだけジャマなので立ち去るようにする。

AEDの使用前は、倒れた人間に声をかけ、意識がないかどうかを確認する。

声かけに反応がなければ、命にかかわる事態なので、使用を躊躇してはいけない。数秒の遅れが命取りになる。

(参照)

最近、公共施設のいたる所にAEDが設置されておりますが、女性の場合、... - Yahoo!知恵袋

AEDで助かる命|心臓病の知識|公益法人 日本心臓財団